――いただきます。
そう言った声が重なった。
少し気恥ずかしくて逸らした視界の端で、有川くんが湯気を纏ったたこ焼きを一口で入れたのが見えた。
絶対熱いよと思っていたら案の定、熱そうにはふはふと声を漏らしている。そのたびに有川くんの口から白い湯気が現れて面白い。
本人にとっては大惨事なんだろうけど。
馬鹿だなあなんて思いながら、爪楊枝で刺した1個を口の中に放り込んだ。すっかり冷ますことを忘れて。
「……あつっ」
おかげで有川くんと同じ目に遭ってしまった。人のこと馬鹿に出来ない。
口の中、やけどしたかもしれない。でも久しぶりに食べたあの店のたこ焼きは美味しかったから、それぐらい許せるけど。
2つ目のたこ焼きにぷすっと爪楊枝を立てたところで、愉快そうに私を見ている有川くんに気付いた。
さっきの失態、絶対に見られていた気がする……。
「……何ですか?」
「んー? 見てて飽きねえなあって思って見てた」
……やっぱり、見てたのか。
変なところを見られてしまって気まずい。
おまけにさっきから続いている気恥ずかしさはまだ治まらなくて、誤魔化すようにたこ焼きを食べた。今度はちゃんと、息を吹きかけて冷ましてから。
ごくんと、喉の奥に噛み砕いたものを追いやる。
「そんなに見続けたって何も面白くないですよ」
「面白いっつーか、単にずっと見ていたくなるんだよなあ、佳乃ちゃんって。……あっ、ソースついてる」
どこにと聞こうと思った直後にはもう、有川くんの手が私の唇の右端に触れていた。
正確に言うと、そこについているソースを人差し指で掬って、自分の口元へ持っていった。
そして赤い舌がペロリと、躊躇いもなくそれを舐める。



