……きっと、こういうのがこの人の手口なんだろうな。
頭の隅でそう思った。
可愛いとか、好都合とか。女の子が喜びそうだったり、かけるべき言葉を、この人はきっと知り尽くしているんだ。
あと、さらっと奢ることも。
そう考え出したらさっきの有川くんの言葉は社交辞令のようなものに感じられて、いちいち恥ずかしがっている自分に違う意味で恥ずかしくなった。
……馬鹿馬鹿しい。
有川くんはそういう女の子慣れしてる人だって、最初から分かってたじゃない。
何をちょっと優しくされたぐらいで、良い人だと勘違いしようとしてるんだろう。
今日の私はおかしい。少しずつ、有川くんのペースに流されているのだから。
たこ焼きを食べるために落ち着けそうな場所を探したけど、あいにく休憩用に所々設置されているベンチは満席だった。
井戸端会議の真っ只中な主婦軍団や、杖をついたお年寄り夫婦。あと子連れのグループとか。
そういう人達が座っていて、当分の間私たちが座れる気配はない。
仕方ないから店舗の切れ目の、メインストリートと路地裏の境目の隅の方に寄って、立ちながらたこ焼きを食べることにした。
出来ることなら立ち食いじゃなくて座って食べたかった気もするけど、しょうがないよね。せっかくの出来立てほやほやの熱々なのに、場所を探している間に冷めちゃうのはもったいないし。
現に座れる場所を少し探し歩いただけで、すでにさっきより手のひらに伝わる熱が減っているような気がした。
「わあ、美味しそう!」
片方のパックを有川くんに渡して、2人同時に蓋を開ける。
すると思わず、そんな声が漏れた。
立ち上る湯気とソースの匂いで顔が覆われる。
綺麗に丸められた6つの薄茶色のたこ焼きに、程よくソースが塗られていた。そしてその上で鰹節が踊っている。



