吐き出す愛



「どうもありがとな。また2人で来てくれよー」


 有川くんが支払いを終えて立ち去る際、おじさんはひらひらと手を振りながら見送ってくれた。

 見た目はちょっと厳ついけど、愛想のある良い感じの人だった。そんなこと、口が裂けても言えないけど。

 そもそもまた来るかどうかは分からないけど、有川くんと来ることはもう二度とないですよおじさん。


「……たこ焼き、ありがとうございます」


 財布をしまいながら前を歩く背中にそう言葉を投げかけると、驚いた様子で振り返られた。私は逆にその動きに驚く。

 有川くんは大きな目をさらに大きくして私を見ていたけど、やがてゆっくり細めて笑った。


「……何だ、可愛いとこあんじゃん。最初からそうやって素直になれば良かったのに」

「かっ、可愛いっ……!?」

「うん。素直な佳乃ちゃん、可愛いーよ」


 惜しげもなく言われる言葉が、まるで心臓をくすぐっているみたいだった。
 可愛いなんてこと他人に滅多に言われたことのないし、ましてやお父さん以外の男の人に言われるのは初めて。

 だからそんな言葉が自分に向けられているなんて、違和感しかない。

 恥ずかしさで一気に顔に熱が集まると、有川くんはくすくすと笑った。


「佳乃ちゃんって、ほんとうぶだなあ。男慣れしてないの丸わかり」

「……それ、馬鹿にしてるんですか?」

「いーや、そんなことねえよ。むしろその方が、俺の好都合だし」

「好都合?」

「だってそうだろ? このデートで俺が、佳乃ちゃんの色んな初めての相手になれるんだからさ」


 有川くんは嬉しそうにそう言う。どうしてそれに喜べるのか、私にはよく分からなかった。