……何でだろう。
たったこれだけのことなのに、とても良い人に見えた。
有川くんは、嫌いなタイプの人なのに。こういう一面もあるんだなあ。
乱された髪を手櫛で直す。でも風が再びすぐに乱してきて、残っていた有川くんの温もりはすぐに消えた。
「へいっ、おまち! 熱いから気を付けてねー」
「あっ、ありがとうございます」
おじさんが白い発泡スチロールのパックを2つ渡してくれる。有川くんはお会計を払おうとしているところだったから、お礼を言いながら私がパックを受け取った。
ほわっと香るソースの匂いと、手に伝わる熱いぐらいの温もり。
またお腹の虫が騒ぎ出しそうになるけど、唾を飲み込んで堪えた。
食い意地が張ってるとは、思われたくなかったし。
パックを受け取って有川くんが小銭を出すのを待っていると、おじさんがカウンターに腕を置いて私の顔を見た。
微妙ににやにやと笑っているのは気のせいじゃないだろう。
何となく嫌な予感がすると、おじさんは私と有川くんに交互に視線を移しながら言った。
「嬢ちゃん、兄ちゃんの新しい彼女かい?」
「ちげーよ。佳乃ちゃんはただのクラスメートだから」
違います、という否定の言葉を喉の上部で準備していたけど、先にそう言ったのは有川くんだった。
その早さに驚いて、私とカウンターの向こうのおじさんの目が同時に見開かれる。
「あれ? 違うのか。前に連れてきた子とは違うから、てっきり新しい彼女かと思ったぜ」
「あいつはとっくに別れたよ」
「そうだったのか。あっ、わりーな嬢ちゃん。勝手に勘違いしちまって!」
「……いえ、大丈夫です」
何が大丈夫なのかもよく分からないけど、愛想笑いを返しておく。
おじさんも気まずそうに笑っていた。



