吐き出す愛



「へいらっしゃい! 兄ちゃん、いつもの6個入りでいいかい?」

「おう。いつものでよろしく。2パックね」


 有川くんが立ち寄ったのはたこ焼き屋さんだった。
 時々お母さんがここのたこ焼きを買ってくるから、何度か食べたことはある。

 タコみたいにつるりとしたスキンヘッドにタオルを巻いているおじさんは、生地を綺麗に丸めていった。

 さっき有川くんと親しげに話してたけど、よく買いにくるのかな。

 ……っていうか。


「あの、有川くん」

「ん?」

「私、お金持ってないんですけど……」

「ああ、大丈夫だって。俺が奢るから」


 不安げな瞳で有川くんを見上げると、そう言ってカバンから財布を取り出した。

 その際にやっと手を放されてほっとするけど、取り出された黒い革のシックな財布に申し訳なくなる。


「おっ、奢ってもらわなくて大丈夫です。だから、有川くんだけ買ってください」

「でも、腹減ってるだろ?」

「私は別に、お腹空いてなんか……」


 ――ぐぅぅ。

 空いてなんかないですって言おうしたまさにその瞬間、見事な音がその場に響いた。

 思ったよりも大きな音が鳴って恥ずかしくなり、慌ててお腹を抑えて俯く。今更、手遅れなわけだけど。


「ふはっ! やっぱり腹減ってんじゃん」

「ちっ、違います!」


 ばっと勢いよく顔を上げると、頭の上に慣れない温もりを感じた。
 有川くんの手のひらが、優しく私の頭の上に乗っている。


「変なところで気なんて遣わなくていいんだって。奢るって言ってるんだから、大人しく奢らせろ」


 頭を撫でられて、髪の毛がくしゃっと乱れた。離れていく温もりの向こうで、有川くんが笑っている。