吐き出す愛







 夕方の商店街は、主婦や親子連れで賑わっていた。
 この商店街は中学校と住宅街を繋ぐ位置にあるから、同じ制服を着た人が歩く姿もある。

 そんな人の波に混ざって、私と有川くんも歩いていた。


「勉強する時間が減っていく……」


 左腕に着けている腕時計を見て、溜め息を溢した。右手は未だに、有川くんと繋がったまま。

 さっきから放してもらおうと地味な抵抗を続けているんだけど、一向に解放してもらえない。

 むしろどんどん指を絡まされてしまい、為す術がなかった。


「まだ勉強のこと気にしてんの? 1日ぐらいどうってことないって。佳乃ちゃん、頭悪くないし」

「……有川くんには分かりませんよ。私の気持ちなんて」

「うん、分かんないね。俺の気持ちも佳乃ちゃんには分からないだろうし」

「……」


 どういう意味なんだろう……。

 夕焼けに染まる有川くんの表情は少しだけ強張っているのに、とても弱々しかった。

 でもすぐに私を見て、いつものようにへらっと笑ってみせた。


「佳乃ちゃん、どこか行きたいところとかある?」

「私は真っ直ぐ家に帰りたいです……」

「それじゃあデートになんねえよ。あっ、それとも家デートしたいってこと?」

「いや、そういう意味じゃなくてですね……」


 ああ、駄目だ。有川くんにはきっと、何を言っても通じない。

 諦めて再び溜め息を吐くけど、それは有川くんの声に掻き消された。


「まあ、いいや。今日は俺のプランでデートすることにするから。とりあえず、腹ごしらえになんか食おうぜー」


 有川くんはそう言いながら、商店街の一角で香ばしい匂いを漂わせている場所に向かう。人の波を斜めに横断した。