「な、何ふざけたことを……」
「ふざけてねーよ。俺、これでも本気だから」
口角は上がっているけど、私を見る瞳はしっかりと固定されていた。
力強い光に、言葉を失いそうになる。
――でも。
「……やっぱり、ふざけてます。だって有川くんだって、まともな恋愛したことないでしょう? そんな人に、恋愛の楽しさなんて分かるはずもないです。だから教えてもらうなんて間違ってます」
知ってるよ。有川くんがちゃんとした恋愛したことないの。
だっていつも色んな女の子と代わる代わる遊んだり、付き合ってて、ちゃんとした彼女の存在なんて聞いたことないのだから。
そんな軽い付き合い方ばかりで安っぽい恋しかしたことない人に、恋愛の何が分かるの。
どこに、楽しさを見出だせるの。
「ははっ! さすが佳乃ちゃん! そう言うと思った!」
「……」
「確かに佳乃ちゃんが言う通り、俺はまともな恋愛したことねーよ」
「だったら……」
「でも、まともな恋愛だけが楽しいとは限らねえだろ? 恋愛の楽しさなんて、経験した奴にしか分からねえよ」
有川くんの声が、視線が、私を射抜いた。
私では到底思い付かない考え方に、ただただ驚かされた。
どう返して良いのか分からずに固まっていると、引き締められていた有川くんの表情がふっと緩められた。
何だかそれに、とても安心する自分がいる。
「それにさ、こんな俺でもちゃんと人を好きになったことぐらいあるよ。今だって、その人に片思いしてるし」
「……えっ?」
このチャラい有川くんが、片思い……?
そんなの初耳だった。



