この人がたくさんの人を惹き付けるのは、きっとそういう明るさがあるからだろう。
有川くんがそれだけの魅力を持ち揃えているのは認める。でも、私にはそんな彼が不愉快だ。
掴まれている腕を振り払って、笑っている彼を睨んだ。
有川くんはそんな私にもちろん怯んでくれるわけもなく、むしろ楽しそうににっと笑った。
「佳乃ちゃんさ、恋もしたことないし誰とも付き合ったことないって言ってただろう?」
「……それが、どうしたっていうんですか」
話が飛躍しすぎて一瞬戸惑う。だけどゆっくりと思い出したのは、有川くんと初めて口を利いた日の忌まわしい記憶。
そういえば、そんなことを言ったけ……。
そもそもどうして有川くんに恋愛事情を聞かれたのかも、あのときから分からないままだけど。
有川くんへの疑問と周りの視線への嫌悪から、眉間にしわが寄っていく。
そんな私とは正反対に、有川くんの表情には明るさが増した。
「恋愛の楽しさを知らない佳乃ちゃんに、俺がその楽しさを教えてやるよ」
「……はい?」
「だからさ、佳乃ちゃん」
ぎゅっと手のひらを掴まれたかと思うと、ぐいっと身体を有川くんの方に引き寄せられた。
ブレザー越しの腕ではなくて、何も介さないで直接触れられた手。
指の間に絡まってくる他人の指先の温もりは、とても不慣れでくすぐったい。
それに驚いて顔を上げると、身体を引き寄せられていたせいで至近距離で有川くんと目が合った。
口を開いた有川くんの吐息が、とても近い。
「――俺と、デートしよう」
よく分からない行動。突拍子もない言葉。おまけに、手から伝わる温もり。
その何もかもに翻弄されて、くらくらした。



