「そうかー? 俺、自分では全然変わった自覚ねーんだけど。つうか、俺がそうならおまえらだって十分変わってるだろ」

「いやいやいやいや! 智也には負けるって!」


 止まらない話題を少しでも逸らそうと無理矢理会話に口を挟んでみるけど、見事に打ち負かされてしまう。

 むしろ話はヒートアップしたように思えた。


 ……つうか、そんなに俺、変わったか?

 みんな俺のことを変わったと言うわりには説明が抽象的で、自覚がない俺にはさっぱり分からない話題だった。

 そりゃあ、勉強が大嫌いだった当時を思えば、美容師を目指して日々猛勉強猛特訓している今は、自分で言うのもあれだけどかなり真面目になったとは思う。

 授業をサボったり、楽しく騒いでいるだけで満足していた頃の自分とは違い、苦労も努力もその先の成果も知っている今の自分の方が、さらに充実した時間を過ごしているのかもしれない。


 だけどそれは、人目に分かるほど身に纏う空気に表れているのだろうか。

 鏡に映る自分の姿にはもちろんそのオーラは見えないから、みんなが口を揃えて言う“変わった”にはいまいちピンとこなかった。


 ……と、何やら気まずくなってみんなの話を聞いていたそのとき。

 友達の肩越しによく知る顔を見つけて、俺の心は一瞬で華やいだ。

 どれだけ周りに人が居ても、皆同じように着飾っていても。
 彼女だけは、俺の目に特別に映る。

 その姿を独り占めしたいような逸る思いをどうにか抑えつつ、周りのやつにはそれを悟られないように、極めて冷静な声で言った。


「ちょっと俺、あっち行ってくる。彼女見つけたから」


 片手を挙げて話の途中で悪いな、という意味を示したら、すぐにでも彼女のもとへ行くつもりだった。

 だけど彼女という言葉に目敏く反応した野郎連中によって、俺は瞬く間に足止めされる羽目になった。