「……もう、調子いいんだから」

「でも佳乃ちゃんだって、こういう俺も含めて好きなんだろう?」


 一体この人には、どれだけの自信が内蔵されているのだろう。

 すぐに返す言葉がないのが悔しくて、代わりに有川くんを睨んだ。
 顔面が緩んでいて、全然意味のない表情だけど……。


「……嫌いだよ、有川くんなんて」

「ふはっ、嘘吐き。顔真っ赤じゃん」

「しょ、しょうがないじゃん……!」


 ……キスなんて初めてなんだから。

 顔だって火照ったままでもおかしくない。

 おまけに好きって言葉も慣れてないのに、愛してるなんて言われたら余計に沸騰するに決まってる。

 おかげで意地で言った反対の言葉も、あっさりと見破れてしまった。

 私が言葉で伝えなくても、有川くんにはどうやら私の本心が伝わっているみたいで。
 薄暗い中でも分かるぐらい真っ赤なままの顔を見て、十分だと言うように笑った。


 どこまでも私の中に入り込んできて、有川くんは私のペースを乱してくる。

 それでも彼のことを、心から嫌だと思うことはない。

 それは私がもう、有川くんに好き以上の気持ちを持ち始めているからなのかもしれない。

 でも、まだそれは言ってあげない。


「……有川くん」

「ん?」

「――好きだよ」


 だけど、この淡い気持ちを積み重ねた先で、必ず伝えようと思う。

 2人で築いた深い愛に、一番似合う言葉で……。


 だからどうか、有川くんがずっと私を信じてくれていますように。

 私もその日までずっと、有川くんを信じ続けるから。


 繋いだ手の温もりに、愛ある未来を託して――。




【END】