「私、こんな顔で笑ってたんだ……」
プリクラを撫でていた指が、ふと2人の顔の上を通過して止まる。
少し幼く見える2つの顔に釘付けになった。
私にぴったりと身体を寄せながら、カメラ目線で楽しそうに笑っている有川くん。
その隣で有川くんの強引さに、顔を強張らせている私。
……そんな、明らかに緊張したような顔で写っているのだけど。
ちゃんと、確かに、笑っている。
有川くんの強引さに戸惑っていたせいでぎこちない感じの笑顔だけど、それでも今プリクラを見れば、私が笑っていたことが分かる。
有川くんの隣で笑う私の顔は、今まで見たことのない笑顔で、少し不思議な感じがした。
友達とプリクラを撮るときとも、家族と写真に写るときとも違う。
そんな、有川くんの隣で初めて見せた顔だった。
……私、有川くんと居ると、いつもこんな顔をしていたのかな。
自分の目で見ていないから確証はないけど、きっとそうだったのだろう。
有川くんと一緒に居て楽しいと感じていたあの時間、私はこんな特別な笑顔になっていたに違いない。
だって私にとって有川くんは、この頃からきっと、特別な存在になっていたのだから……。
有川くんのことを考えると、自然と頬が緩む。
もちろんその顔は、このプリクラに写っているものとそっくりだろう。
マスコットとプリクラの埃を払って綺麗にしたあとは、それを小さな戸棚の上に飾った。
もう、光が当たらない暗い場所に閉じ込めておく必要はなくなったから。
それからもう1つ。
帰省の荷物の中から取り出したものも、それらに仲間入りさせる。
新たな思い出が増えたことを示すように私の手元にある、赤ちゃんペンギンのぬいぐるみを。
私の心が晴れているせいか、ぬいぐるみたちも喜んでいるように見えた。