たくさん有川くんの嫌な部分を見て、信じられないと思ってきたけど。別に、謝ってほしかったわけじゃない。

 信じられなかった理由を話したのも、責めるつもりなんてなかった。

 それでも……不思議と涙が滲んでくる。

 有川くんに私の気持ちがちゃんと届いたんだって、真っ直ぐ向けられた言葉から実感出来たから……。

 涙を見られないようにぎゅっと瞼を強く閉じる。

 それから私も、伝えなければならないことを声にした。


「私の方こそ、謝らなくちゃいけないよ。有川くんがどれだけ信じてって言ってても、信じようともしなかったもん。……だから、ごめんなさい」


 有川くんが私を傷付けたと言うならば、それは私にも当てはまる。

 自分勝手なのは、私も同じだから。


「いいんだよ、佳乃ちゃんが謝らなくても」


 何度か見てきた有川くんの傷心の表情が頭に浮かんで申し訳なく思っていると、優しい声でそう言われた。

 おかげで余計に涙腺が緩む。有川くんがそっと身体を離した。


「これからは佳乃ちゃんを傷付けないようにするし、疑わなくてもいいぐらい信じてもらえるようにする。だから……俺と付き合ってくれる?」


 さっきまでは堂々としていたのに、不安そうに確かめてきた。

 おまけに泣くのを我慢して目の縁が赤くなっているであろう私を覗き込んでくる。


 あの頃からたびたび、気の弱そうな瞳で私の気持ちを確かめてくる有川くん。

 実はこの臆病な部分が、有川くんの根本的な部分なのかもしれない。

 ……なんて、思えるほど、目の前の彼は、信じることが出来そうだった。


「……私で、良ければ」


 目尻から滴が落ちるのも構わずに、照れ隠しで笑えば、有川くんも安心したように表情を和らげる。

 本心を見せ合って見つめ合うその瞬間は、とても、安らかだった。