今日私とデートしている時点でおかしいのに、これ以降同じようなことがあっていいはずがない。
例えまた気まぐれで誘ってきたとしても、私はそれを断るだろう。……ううん、必ず断るべきだ。
どんなに会いたいという気持ちが生まれてしまったとしても、断らなければいけないんだ。
……ああ、好きだなんて、気付かなければ良かったのにね。
そうだったらきっと、先がない未来を想像しても、痛みは感じないはずだから。
こんな気持ち、身体の中から吐き出して。
地中深くに埋めて、誰にも知られないまま滅べばいい。
そうでもしないと、また引き止めてしまいそうだから。
早く、早く。
彼に知られてしまう前に、早く――。
以前一緒に出かけたときに別れたときと同様に、有川くんはコンコースの途中で足を止めた。
先に止まった彼に倣って立ち止まると、有川くんが私に向き合う。
まだ、手は繋いだまま。
別れを受け入れるためにしっかりと有川くんの顔を見上げると、また考え込んでいるような表情でこっちを見ていた。
固く結ばれていた唇が開きかける。
「……あのさ、」
「――智也?」
意を決したように有川くんが紡ぎ出した言葉は、すべてを打ち消すようなはっきりとした声によって途切れた。
有川くんの名前を呼んだ声は、初めて聞くものだった。
……まさか。
嫌な予感で、すーっと身体から熱が引いていく。
私と有川くんが一斉に声の主を探すと、一度だけ見たことがある姿が有川くんの数メートル後方にあった。
「おまえ、何でここに……」
有川くんが一瞬、狼狽えたように声を漏らす。
おかげで、確信を得ることが出来た。
今、怪訝な表情でこちらに歩み寄ってくる人は……有川くんの彼女だ。
以前電車内で見かけたあの女の人が、そこに居た。