吐き出す愛



「有川くんがかけてくるなら私もかけるし!」

「うわ! しょっぺー!」


 反撃のつもりで、笑っている有川くんに手のひらで掬った海水をかけると、まともに顔に食らわせてしまった。

 しょっぱそうに顔をしかめて口元を拭う有川くんに、今度は私が声をあげて笑う。

 そうやってしばらくの間、しょうもないやり取りを飽きもしないで繰り返した。

 おかげで腕や脚は海水でべたべたになった。有川くんからの海水攻撃はかなりよけたから、服はあまり濡れずに済んだけど。


「あー、何か騒いだらすっきりした!」

「私も、何かすっきりした気がする。海水をかけあってるだけで、あんなに騒いじゃうとは思ってなかったけど……」


 浅瀬から出て近くにあった洗い場で足や手を洗ったあと。
 レンガ道の脇に並んでいるベンチに腰掛けて休憩をした。

 思ったよりも夢中になって海水をかけたり逃げたりしていたから、結構疲れたような気がする。

 だけど、清々しい疲労感だった。
 たくさん笑ったおかげかもしれない。

 あんなに無邪気に騒いだのって、久しぶりかもしれないなあ。

 ここ最近はずっと重い気持ちが心の中にあって、気分も沈んでばかりだったから。

 ……まあ、その原因の人が今隣に居るから変な感じだけど。


「ははっ、確かになー。あんなに騒ぐとは思わなかった。でも、楽しければ何でもいいじゃん!」


 私の気持ちなんてちっとも知らない有川くんは、能天気に笑って伸びをする。

 それから左隣に座っている私に、にっと笑いかけた。


「今日1日さ、佳乃ちゃんとデートしてすげー楽しかったよ。……佳乃ちゃんは、俺と居て楽しかった?」


 しみじみとした声に、少しだけ不安の色が混ざったような気がした。

 私の心を探るように有川くんが見つめてくる。