吐き出す愛



 ズシリ、と。
 急に自分の重苦しい感情を思い出して、身体にのし掛かる感じがする。

 そんなことも知らない有川くんは、優しく私の手を引くと、通路の方に目を向けた。


「ほら、佳乃ちゃん。あっちから回ってみよう。面白そうな魚がいるみたいだよ」

「……うん、そうだね」


 重りから意識を逸らして、ぎこちない笑顔で返す。

 何かしら笑っていないと、考えないようにしていた事実が頭に浮かんでしまう。

 だから今はただ、目の前の彼だけを信じることにした。

 くれる言葉も、笑顔も、手の温もりも。
 本当に信じられるものだなんて、到底思えなかったけど……。



 舞い上がったり、沈んだり。
 デートの序盤はとても忙しなかったけど、有川くんと過ごすことに慣れたら、浮き沈みは次第になくなっていった。

 むしろ、ずっと心は浮いていた。重りから解放されたみたいに。


「見て! 赤ちゃんペンギンがいるよー!」

「ほんとだー。めっちゃぬいぐるみみたいじゃん」


 厳つい顔の魚に笑ったり、変わった生態の魚に感心したり。
 シロクマの餌のダイビングキャッチに驚いたり、イルカショーに声を弾ませたり。

 2人でゆっくり水族館を回り、見とれたり笑ったりしながら楽しい時間を過ごした。

 今はちょうど、ペンギンの水槽の前に居る。

 水槽手前の深い水場では、大きなペンギンが勢いよく泳いでいた。

 そして水槽奥の岩場には休んでいるペンギンが居て、その群れの中に赤ちゃんペンギンの姿を見つけたところだ。

 お母さんらしきペンギンの足元に隠れるように居て、灰色の羽毛に包まれた身体をときどき来場客にお披露目してくれている。

 あまり顔が見えなくて、しばらく水槽の前で粘ってみると、赤ちゃんペンギンが一瞬だけこちらを見た。

 丸い瞳と、目が合った……ような気がする。

 守ってあげたくなるような愛らしい可愛さに、見ているだけで笑顔になった。