吐き出す愛



「違うよ、その逆。他の奴じゃダメに決まってんじゃん。俺が佳乃ちゃんと行きたいって思ったから、佳乃ちゃんを誘ったんだから」


 有川くんが笑った気配に反応しておずおずと見上げると、本当に笑っていた。

 驚くほど、優しい微笑みで。


「……勝手だね、有川くんは」


 じわりと全身に広がったくすぐったい感覚を誤魔化すように、また窓の外を眺めて呟いた。

 反射する日差しが眩しい。


 本当に、有川くんは勝手なことばかり言う。

 そのくせ不思議と引き付けるようなことを言って、期待させるなんて。……ずるいよ。

 そんな、私でなければダメみたいに言わないで。
 どうせあの頃と同じで、軽い気持ちでしか思っていないのだから……。


「水族館、楽しみだなあ」


 私の呟きが聞こえていなかったのか、有川くんが弾んだ声で言う。

 言葉が出ずに黙って頷く私には、その声さえも虚しく聞こえた。


 それ以降、有川くんはあまり話しかけてこなくて。
 彼と過ごす時間としては珍しい沈黙に、電車内で心が折れそうになった。

 でも電車は、滞りなく目的地直通の駅に着く。

 ホームに降り立ったところで再び有川くんに手を繋がれた。
 振り払うこともせずに連れられるままに歩いていけば、あっという間に水族館の入り口に辿り着く。

 そしてチケットを購入して、有川くんのあとに続いて入館すると……。
 沈んでいた心が、一気に明るくなった。


「……わあっ! すっごく綺麗!!」


 朝から賑わう水族館に入ると、すぐ正面で巨大な水槽が出迎えていて。
 その広大な水中で泳ぐきらびやかな魚たちの姿に、声を漏らさずにはいられなかった。