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「ねえ、行き先を教えてよ」
空席が少ない電車に乗り込み、後方車両で何とか見つけた席に並んで腰掛ける。
繋いでいた手が自ずと離れたその瞬間に再度行き先を尋ねると、有川くんは近くの吊り広告を指差した。
「今から行くのはあそこ」
「……水族館?」
「そう。あの水族館行ったことないから行ってみたくてさ。一人で行くのもつまんないし、それで佳乃ちゃんを誘ったんだ」
広告で紹介されているのは、まだ1年ほど前にオープンしたばかりの新しい水族館だ。
ちなみに私たちが乗った駅からは1時間程度で着く。
私もまだ行ったことはなかったから、正直今、行き先があの水族館で嬉しいと思った。
……でも、と。
心の中にあるわだかまりが疼き出す。
「……水族館なら別に、誘うのは私じゃなくても良かったんじゃないの?」
また、突っ放すような言い方になってしまった。
こんなのまるで、有川くんの反応を確かめているみたい。私、嫌な女だなあ。
だけどさすがに、言わずにはいられなかった。
だって本当に、誘う相手は私でなくてもいい気がしたから。
彼女がいるんだから、水族館なんていくらでも一緒に行けるでしょう?
それに例え彼女がダメでも、有川くんにはもっと誘える相手がいるでしょう?
わざわざ中学時代の同級生、しかも再会したばかりの私でなくても、たくさん……。
有川くんの顔をまともに見て返事を聞く勇気まではさすがに持っていなくて、ふいっと視線を逸らした。
流れていく街並み。
その隙間から、きらりと水面が光る海が遠くに見えた。
隣でふっと、息が漏れた音がする。



