黙りこんでしまった私の耳に、有川くんの強引な声が届く。
「嫌じゃないなら、断る理由はないだろ?」
「そっ、そういうことじゃなくて……」
「土曜日、俺とデートで決まりな! 9時に駅の西口側で待ってるから。じゃあ、また」
「あっ、ちょっと! 有川くん……!?」
有川くんは私に断る余地さえ与えないまま早口で予定を決めると、無理矢理電話を終わらせてしまった。
プーッ、プーッと。
繋がりが切れたことを示す音が、嫌味のように鳴っている。
「何で勝手に決めちゃうのよ、馬鹿……」
待受画面に戻ったスマホに不満を呟くけど、もちろん本人には聞こえていないから意味がない。
だけどかけ直して文句を言う度胸がない私には、それが精一杯の抵抗だった。
何なのよ、デートって。
彼女がいる人が、他の女とデートしてもいいの?
そう言いたい。でも言ってしまえば、自分の立場が何なのかもはっきりと分かってしまう。
彼女がいるのに、デートに誘うなんて。
それは所詮、軽い気持ちで遊ぶだけの相手なのだから……。
虚しい思いが募る。
きゅっと唇を引き締めて、卓上カレンダーに目を向けた。
有川くんに会えるのに自分の立場を思うと悲しくなるその日に、ぐるぐるとシャーペンで印をつける。
不格好な円が、心の隙間の形のように思えた。
有川くんから連絡が来るまでは、早く夏休みになってほしくて仕方がなかった。
だけど今なら、試験期間がもう少し長くても良かったとさえ思える。
8月の第1土曜日。
そんなことまで思ってしまうほどの重たい心を抱えて、私は駅の西口に居た。
気分が乗っていないくせにドタキャンもせず、むしろ待ち合わせ時刻よりも早く来てしまっている。
そんな真面目な自分の性格が、この場においてはとても憎らしかった。



