吐き出す愛



 だけど戸惑っている間、ずっとスマホは鳴りっぱなしで。
 だんだん、急かされているような気分になってくる。

 仕舞いには止まってくれない音に負けて、恐る恐る電話に出た。


「も、もしもし……?」

「あっ、やっと出てくれた! もしかして今、忙しかったりする?」

「ううん、大丈夫だよ。……何か、用事だった?」


 初めての電話に戸惑っていたのは私だけみたいで、有川くんはすらすら話した。

 電話口で聞く有川くんの声は、普段のものより少し高めだ。
 でも何だか、楽しそうに弾んでいるようにも聞こえる。


「まあ、用事といえば用事かな。佳乃ちゃんさ、次の土曜日って何か予定ある?」

「土曜日? 今のところ、何もないけど……」


 有川くんが指定した日は、前期の期末試験最終日の翌日だった。
 つまり、長い夏期休暇の初日。バイトのシフトも入っていなくて、ちょうどオフの日だ。

 有川くんが息を吸い込んだ音が、小さく聞こえてくる。


「じゃあ、その日を俺にちょうだい」

「えっ?」

「――俺と、デートしようよ」


 どこかで聞いたような台詞を、いつかと同じように楽しそうな声が言う。

 言われていることの意味は分かるけど、どうしてそれを有川くんが言うのか分からなかった。


「……はい? で、デートって、何で……」

「俺が佳乃ちゃんとデートしたいんだよ。佳乃ちゃん、俺とデートするの嫌?」

「嫌っていうか、そもそも有川くんには……」


 ……彼女がいるんじゃないの?

 電車の中で見かけた女の人のことを思い出して、そう言ってしまいそうになる。

 でもこっそり見かけたものを言っていいのかも分からなくて、途中で口を噤んだ。

 だけど脳裏には私とは違う派手な容姿の彼女が浮かんで、代わりの言葉も見つからない。