尋ねたことに、有川くんはすらすらと答えてくれた。
「いや、違う。あれはバイトっつうか、雑用みたいな感じで手伝ってるだけ。あそこ、姉貴夫婦の店だからさ、店の雰囲気とか体験させてもらってんだよ。俺はまだ美容専門学校の2年生で免許持ってないから、お客さんには触れねえけど」
有川くんが自身について話してくれることはとても新鮮に感じられて、適度に頷きながら興味が湧いていく。
そして、てっきりあのヘアサロンのスタッフの一員だと思い込んでいたから、拍子抜けした。
美容専門学校に通っているというのは、全然想像もしていなかったから。
でも……なるほど。
まだ美容師免許を持っていないのなら、有川くんがお客さんに一度も触れていなかったのも納得出来る。
だからあのとき智香子さんは、有川くんに会計を頼んでたのか。
「そういえば美容専門学校って、K大学とは駅を挟んだ反対方向に1校あったよね。もしかしてあそこ?」
「そうそう、あそこ。今住んでんのもその近く」
「そうなんだ……。私も大学の近くに住んでるんだよ」
「へえ! じゃあ俺ら、結構近くに居たんだな! 今まで会わなかったとか、逆にすげーな!」
ははっと、有川くんは大きめの声で笑う。驚いているようにも、楽しんでいるようにも見える笑い方だった。
確かにすごい、と言った私も、つられて似たように笑っていた気がする。
不思議なものだなあ、と思った。
高校を卒業するまで住んでいた地元でも、上京したこの土地でも。
どこに居たって有川くんを探していたのに、それでも全然見つからなかったというのに、今はこうやって向かい合って笑っているのだから。
しかも地元でもここでもずっと近くに居たことには変わりないのに、今まで全然遭遇しなかったのだから驚きだ。
まるでこの瞬間のために、今まで会わなかったんじゃないかな……って。
思わずそんなことを考えてしまうほどに、有川くんとの再会を特別だと感じていた。