吐き出す愛



 それからお母さんとは他愛ない会話をして、夏休みには帰ることを約束して電話を切った。

 スマホをテーブルに置き、ソファーの背もたれに身体を預ける。
 今までの疲れがすべて、一気に襲いかかってくるような感覚がした。


「夕飯、作るの面倒くさいな……」


 一人言は、一人きりの空間に虚しく放り出される。

 コンビニでバイトをしているのだから、すぐに食べられるものを買ってくれば良かったと。今更ながら、そんなことを思った。

 やる気をすっかり失った身体を少しだけ起こして、置きっぱなしにしていた郵便物に手を伸ばす。

 一人暮らしの学生宅に届くものなんて広告がほとんどで、たかが知れている。今回も例に漏れずそればかりだった。
 何か使えそうなクーポンが付いていないか確認するために、一応念入りに目を通していく。

 唯一使えそうなクーポンが付いていたのは、ヘアサロンのものだけだった。


「ヘアサロン、か……」


 胸の辺りまで伸びたストレートの黒髪に視線を落とす。
 ここ数年はすいたり毛先を整えるぐらいしかしてこなかったから、すっかりロングが定着していた。

 夏が間近に迫るゴールデンウィークには地元のヘアサロンですいてもらっていたけど、何しろ今年は帰省していない。
 そのせいで今は、髪のボリュームが増えている。

 長い上に量が多い髪の毛は、夏を思うと憂鬱だった。何しろ今の時点ですでに、鬱陶しく思い始めているぐらいだし。

 ……行ってみようかな。

 クーポン付きのチラシを見て、そんな考えがよぎった。

 知らないヘアサロンに行くのは少し躊躇われる。だけどチラシを見ている限りアットホームな雰囲気で、初めてでも行きやすそうな感じに思えた。

 それに地図を見るとここから近いみたいだし、おまけにクーポンもある。

 それなら、行ってみよう。
 少し髪の毛が軽くなれば、最近はずっと重いままの気持ちも、同じように軽くなるかもしれないし。

 そんな能天気な考えで前向きになると、面倒くさいと感じていた夕飯の準備を始めた。