吐き出す愛



 別に家族と顔を合わせ辛いことがあったわけではない。

 バイト先が人手不足でたまたまシフトを多く入れたのが理由の一つだけど、それはあくまでも、親を納得させるための口実。

 本当は、地元に帰る勇気がなかったんだ。

 私はいつも地元に帰るたびに、より彼のことを探してしまう癖がついていて。今回も帰れば、きっと懲りもせずに探してしまう。

 それを、今だけはやめたかった。


 毎回帰っていても、一度だって会えたこともなくて。
 地元に帰れば彼に会えるという保証さえもまったくないのだけど、それでも彼に会うかもしれない気がして、帰ることを拒んだ。

 あんなに探していたくせに、また私は怖じ気づいているんだ。

 小山くんからの告白。ちえりに指摘された、彼への特別な感情。

 それらが私の中で作用した今、彼に会ったら自分がどうなるか分からない。
 分からないことが、とても怖かった。

 それに私は彼を探して、どうしたかったのだろう。
 そんなことさえよく分からない気がして、結局臆病な私は踏み込むチャンスを自ら潰していた。

 矛盾した心で、ずっと足踏みをしているみたい。


『……佳乃? ちょっと、佳乃ってば! 聞いてるの!?』

「……あー、うん。聞いてるよー」


 呆けていた私の右耳に、お母さんの甲高い声がキーンと響く。
 誤魔化すように適当に返した言葉に溜め息を吐くと、お母さんはさらに心配そうな声を出した。


『もう、佳乃ってば。本当に無理とかしちゃダメだからね? 元気ないような声で話されたら、全然大丈夫なように思えないわ』

「……本当に、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」


 お母さんの言葉は、明らかに私の様子の変化に感付いているものだった。

 これ以上私の余計な悩みのせいで心配はかけたくなかったから、元気なフリをしてみせたけど……。きっと、そんなの見抜かれているだろうな。

 ……親には、敵わないよ。