吐き出す愛



 メッセージを送信し終えたスマホをテーブルに置くと、ちえりはとても穏やかな声で話した。


「人を好きになる瞬間って、不思議だけどとても一瞬のことだと思う。あたし、さっきはいつ好きになったか分からないって言ったけどさ。あえていつなのかって答えるなら、一哉に初めて会ったときかもしれない。最初の出会いの一瞬から、一哉を好きになることが決まってたような気がするの」

「最初から、か……」

「もちろんその一瞬は、人それぞれだと思うよ。あたしの場合が、出会いだったわけ。恋に落ちる一瞬って、奇跡みたいなものだよ。でも曖昧すぎて、気付きにくい一瞬ってこともあるかもしれない。だから佳乃だって分かっていないだけで、もうその一瞬を経験してるのかもしれないよ?」

「そうなのかな……」


 私は恋に落ちる一瞬を、もう経験しているのかな。
 ちえりが言うように、それを見過ごしてしまっているだけなのかな。

 奇跡のような一瞬は、どこにあるのだろう。どこに、あったのだろう。

 見当がまったくつかなくてふうっと息を吐き出すと、ちえりも溜め息を溢していた。


「……恋ってさ、難しいよ。片思いのときは相手の気持ちが分からなくて辛いし、両思いのときだって悩みは尽きないもん。楽しいこともあるし幸せなときだってあるけど、その反面で嫉妬しちゃうことも多いしね」

「そっか……。付き合ってても、大変なんだね。一哉くん、モテるみたいだし……」

「そうそう。あいつ無駄にモテるから、毎日嫉妬しまくりだよ。大学には女友達もたくさん居るみたいだし」


 うんざり、とでも言いそうな表情で、ちえりはまた溜め息を吐いた。ちらりとスマホを見て、返信が来ていないかを確認している。

 一哉くんに恋い焦がれているのが滲み出ている横顔だった。