吐き出す愛



 そういえば、彼も同じようなことを言って奢ってくれたことがあったっけ。

 目の前の人物は彼とは正反対のタイプの人なのに、些細なことで探していた影を重ねてしまう。


 ……どうして。
 私は今になっても、こんなにも彼の影に縋り付いてしまうのだろう。

 胸の隙間はやっぱり、彼とは違う男の子では埋められないかな。

 15歳の自分が、心の奥で泣いているような気がした。
 嫌いだった彼の名前を呼びながら。


 だけどそんなイメージは、ぐっと唇を噛み締めてすぐに抹消する。

 最近は、ずっとこれの繰り返しだ。
 彼のことを未だに探している自分が居ることを把握しているくせに、意地でもそんな自分から目を逸らそうとしている。

 私はいつだって臆病なんだ。
 15歳の頃の自分の思いと選択を信じようとして、そのくせ微かな気持ちの変化に揺らいでいる。

 そして結局はどっちつかずのまま、自分の本音を認めるのを怖がっているだけなんだ。


「……じゃあ、遠慮なく、御馳走になります。ありがとうございます」

「いえ、こちらこそありがとうございます。じゃあさっそく、頼みましょうか」

「はい」


 雑念を振り払って、2人で品書きを眺める。
 だけど目でお洒落な献立名を追っても、全然心は喜んでくれない。

 私の心は、やっぱり置き去りなのかもしれない。


 散々品書きと向き合った末に、何を頼んでいいのかも余計に分からなくなって。結局は、小山くんと同じ花御膳を頼んだ。

 小山くんもそれがこの店のおすすめだと言っていただけあって、運ばれてきた料理は見栄えからしてとても彩り鮮やかだった。