吐き出す愛



 ……だけど。

 わずかな彼との思い出に、私はしがみ付いていたのかもしれない。

 避けたのも、関わりを絶ったのも、全部私からだったけど。
 気が付くと、あの頃の記憶を頼りにしながら彼の姿を探してしまう。

 それは、きっと。
 胸にポッカリと開いた隙間を埋めてくれるのが、彼の存在だと分かりきっているからだと思う。

 あの15歳の日々の間に、変わっていないと思っていた世界は、すでに変わっていた。

 嫌いだったけど、それでも構わなくなっていたんだ。
 彼を嫌いだと感じる思いさえも、信じてみようとさえした少しの思いも。

 彼を含んだすべてを加えて、私の世界はすでに成り立っていたから。



 ――ブゥーン、ブゥーン、ブゥーン……。


 居るはずのない彼の影ばかりを探す私の気を引くように、テーブルの上でスマホが画面を表示させながら震えた。

 それは、小山(こやま)くんからのメッセージの受信を知らせるものだった。

 小山くんとの出会いは、春休みに友達に無理矢理連れて行かれた合コン。
 一度も彼氏が出来たことのない私を心配した友達に、断るという選択肢を与えてもらえないまま、合コンの場に行くことになっていた。

 別に、彼氏を作ろうとする気持ちはなかった。
 相変わらず好きの感覚も分からないまま、初恋も未経験のまま、この歳になっていたけど。
 それでも焦るとかそんな気持ちは全然芽生えていなくて。

 むしろ彼と関わったあの頃のことが、人を好きになることのトラウマになっていたのかもしれない。

 初めて好きだと言ってくれた人は、安っぽい恋をするような人だったわけで。恋をする気持ちというものが、何も信じられなくなっていた。

 きっと私自身の力で人を好きになる気持ちを理解しない限り、彼氏が欲しいなんて望むことはないのだと思う。

 ……そう、思ってはいたんだけどなあ。