ピンポンとドアベルが鳴った。

インターフォンに出た。

「美莉。」

「卓巳?」

私はドアを開けた。

「どうしたの?こんなに遅く?」

「入ってもいい?」

「どうぞ。」

「お邪魔します。」

「私の部屋、狭いけど。」

「別に構わないよ。」

「何か飲む?」

「いや、すぐ帰るから。」

「そう。」

「へぇ、僕の歌を聴いていた?」

「うん。次の詩を書きながらね。」

「須山さんが渋い顔をしていたよ。美莉の詩が変だって?」

「自分でも変だと思ってる。まともすぎて。」

「そうだな。」

「それで用事は何かしら?」

「特にないよ。顔を見に来ただけだから。」

「そうなの?」

「君は以前と違う。前はもっと僕にドキドキしていたよ。今は違う。なぜ?」

「なぜって言われても。自然にこうなったの。」

「自然にね。もう僕にはトキメかない?」

「私はその時の全てを吐き出すと変われるの。そして次へ進むの。」

「僕はそうじゃない。今も君が欲しいと思っているんだ。」

「ウソよ。そんなこと思ってない。」

「君みたいな女は他にいないと思う。強くて冷たいんだ。そして男は必要ない。男がいなくても生きていける女だ。」

「私はそういう女なの?」

「そうだよ。残念ながらね。荒木さんはそういう君を最大限に活かしてきた。君が仕事に生きる女だと見抜いていると思う。」

「荒木さんはそういう意味では私のパータナーだと思ってる。」

「君が全てを捨てて恋愛に走る女じゃないことを知っているのは荒木さんと須山さんと僕くらいだ。」

「本当にあなたの言う通りね。まるで沙良さんのことを聞かされているようだわ。」

「沙良?」

「須山さんの元恋人なの。荒木さんと奪い合った。沙良さんは結局二人とも捨てて仕事を選んだの。」

「へぇ、美莉も同じじゃないか?僕を捨てて仕事一筋だ。」

「私はあなたを捨てた覚えはない。」

「いや、捨てたも同然だよ。君は最初に会った頃の君じゃないよ。僕とは何もなかったが、僕側から見たらそう思えるんだ。」