恋するほど   熱くなる

バリアーのメンバーは何日もスタジオにこもって曲を完成させた。

わたしはどんどん詩を書いていた。

ほとんど部屋にこもって書いた。

土曜日だけは荒木さんとの約束で事務所へ出向き

日曜日は関根先生のレッスンを受けていた。

秋のリサイタルが近づくと平日も先生の稽古場へ通った。

バリアーのセカンド・アルバム『ソゥ・ヘビィ』が完成しTVで流れた。

ラジオでは彼らの曲が流れない日はなかった。

リーダーの卓巳はいつも鋭い眼差しを画面に向けて歌った。

女だったら誰もが彼の視線に射抜かれたいと思うはずだ。

私は自分がその一人なのかどうか定かではなかった。

彼のことはまだ何一つわからなかった。

ただ、私の書いた詩に曲をつけて歌う彼しか知らなかった。

バリアーは全国ツアーを控えていた。

当分メンバーと会うこともない。

私は以前と違い

書いた詩は全て卓巳が歌うことになるのを前提として考えるようになり

詩風に変化が出始めた。

前ほどハードでヘビィで濃厚なものでなく

胸がつかえて辛く苦しむ想いと

遠く離れてしまった寂しい想いと

再び触れたい切ない想いがごちゃ混ぜになったようなフレーズがほとばしった。

「美莉、何?この詩?君の詩は変わったのか?別人が書いたような詩だ。」

荒木さんは私の詩を読んで困惑していた。

「これじゃ、須山が納得しないよ。」

「でもこれしか書けないんですもの。」

「・・・・・」

荒木さんは無言だった。