恋するほど   熱くなる

「美莉、どうだった?」

須山さんが私に聞くので答えた。

「この世の全ての女のためにある歌だと思いました。」

「あっはっは、そのものズバリだ。今の君が言ったセリフをキャッチフレーズにしてもいいな。」

「胸が苦しくて身体の中が震えました。」

「君の言葉に俺も頭が上がらないな。」

メンバーがスタジオから出てきた。

「美莉ちゃん、どうだった?僕達の歌は?」

ギターの一人が言った。

「震えるほどしびれたわ。」

卓巳の声にどうにかなりそうだったとは口が裂けても言えなかった。

「それだけ?卓巳の声でどうにかなりそうじゃなかった?」

「・・・・・」

「おまえら、それ以上言うなよ。美莉は僕だけがいじめていいんだから。」

「卓巳の独り占めなんて許せるかよ。」

「そうだ、そうだ、美莉ちゃんは僕ら皆のものだ。」

「静かにしないか。今日はもう帰っていいぞ。明朝一番に移動するから今夜は早く寝とけよ。わかったな?」

「須山さん、ズルイですよ。美莉ちゃんをどうする気ですか?」

「バカ言え。送っていくだけだ。」

私は須山さんに送ってもらった。

「今日のことは荒木さんにくれぐれも内緒にしてください。」

「美莉、荒木はいつも君を一番に考えている男だ。アイツは本当なら今頃医者だった。沙良のことでかなり参っていたんだ。医者になるのを蹴ったくらいだ。俺にはそれしか言えない。たぶん今も沙良への想いを引きずっているはずだ。表面的にはわからないが。君にそこまで話すつもりはなかった。それから卓巳には惚れるなよ。アイツは誰にも本気になれない男だ。」