「美莉、今日は一人?マネージャーは?」

「ちょっと他に用事があっていないの。」

私は卓巳にウソをついた。

まさか内緒で来ているとは言えないし

その理由も言えなかった。

「荒木さんは片時も君のそばを離れない人かと思ってた。」

彼の言う通りだ。

荒木さんはいつも私のそばにいる人だった。

今の私の行動は彼を裏切ってしまったかしらとちょっと気をもんだ。

でもそう思ったのも一瞬だった。

私はリーダーの卓巳の存在が私の中で大きくなっていくのを意識できた。

彼に見つめられると逆らえない自分がいた。

私はメンバーの生歌を初めて聴いて内臓が震えた。

私の詩が魔法にかけられたように譜面から浮き上がって卓巳の声となり

私の耳から入って体内に響いた。

卓巳の低音の甘い歌声に鳥肌が立った。

私の詩はすごく淫らで刺激的なつぶやきに聴こえた。

あの声でこの詩をこの曲で歌われたら

世の女達はそれだけで身悶えることになると容易に想像できた。

私は胸の鼓動がドクドクしてきてどうにもならなかった。

卓巳は三番まで歌いきり

音声ルームにいる私の目を見つめた。

まるで私だけのために歌ったかのように

いつまでも私を見つめる彼の目から逃れられずにいた。

「オーケー、上がっていいぞ。」

須山さんの声に他のメンバーが動いたので

私はようやく彼の呪縛から解放された。

息苦しかったと心の中で思った。