私は荒木さんと事務所へ戻った。

「須山のヤツ、美莉の詩をどこまで利用する気だ。」

「荒木さん、須山さんは常に外のニーズをつかんでいる人だわ。私は彼のやり方が好ましいとは思わないけどあちらの業界では普通のことなんでしょう?」

「ああはなりたくない。」

「荒木さんらしい。沙良さんて荒木さんのお知り合いですか?」

「アイツ、余計なことを言いやがって。沙良は須山の恋人だった。今は捨てられたと言っていたよ。」

「そうだったんですか。」

「無期限の契約なんて聞いたことがない。作詞家なんていつ辞めてもいいよ。だが逆に考えたらバリアーをつぶすのも君次第ってことだ。」

「私は続けられる限り詩を書きます。」

「君は須山を知らないからそんなことを言っていられるんだ。何かあってもアイツは知らん顔だ。」

「そうかしら?バリアーのリーダーはまともなアーティストだと思います。私、あのリーダーの瞳が怖かった。」

「ミュージシャンは狂喜の世界に住んでいるモンスターだ。僕にはそうとしか思えない。」

「魔窟に巣くう獣のように鋭い眼光を放ち私の全てを射抜いて終わらせた。」

「君のそのヘビィはフレーズ、どうにかならないのか?」

「沙良と言う女性をネットで見たんです。」

私は荒木さんのパソコンで彼女を検索した。

「ほら、彼女です。日本の古来の音楽をオーケストラとコラボしたもので小太鼓や横笛やお琴をアレンジした素晴らしい演奏なの。この曲のCDを注文しました。シングルの両面で一曲なんです。」