スタジオには私一人しかいなかった。

荒木さんと須山さんは奥の音響室の中だ。

私の声は誰にも聞こえないはずだった。

私はもう一度

今度はしっかりとひきながら三番まで通して歌った。

何年振りかで弾いたピアノの音に夢中になった。

自分の部屋にはキーボードしかなかったので

本物のピアノの音にうっとりできた。

「美莉、君もピアノを弾くの?」

いつから私の後ろいたのか

卓巳が言った。

「はい、少しですけど。キーボ-ドしか持ってないので本物のピアノを触ってみたかったの。ごめんなさい、勝手に弾いてしまって。」

「いや、別に構わないよ。」

「この詩は二番までだけど、後で三番を付け足したんです。」

「後で教えてほしい。」

「はい。」

私は荒木さんがいる方へ行こうとした。