「春日さん、ちょっとイイ?」








窓口の書類を整頓している時、戸塚弥生が声をかけてきた。








戸塚さんの強張った怖い顔。







さっき見られたレイとの事だろうとすぐに察しがついた。







「場所を変えましょう」








こんな人が多い所で、話したくない。








案内窓口から少しな離れた、生徒玄関そばの空きスペースに戸塚さんと移動する。








「春日さん、レイ君と音楽室で何してたの?」








ストレートすぎる質問で睨みつける戸塚さん。








「案内を頼まれたから一緒に回っていただけよ。」








キスしたなんて言える訳でもなく、バレバレだけど、とぼけるしかない。








ただこうして戸塚さんを近くで見て気づいたことがある。








派手な感じは、自己演出だって事。








明るいブラウンに染められたカールした髪、黒目を大きくするカラーコンタクト、眉毛なんて全部剃って髪色に合わせた色で描いてある。








まつげもエクステかな?不自然に長い。







ちょっと離れれば派手に見えるけど、近くで見ると、痛々しい。








それに、すごく怒っている。








「嘘ばっかり!あの雰囲気で何もなかった訳ないでしょ?リョウの次は弟まで手を出すつもり?春日さんて、相当男好きなのね?」





  



    私がレイを誘惑したみたいに思ってる???

 


   



   って事は、リョウも私が誘ったとでも????




   


   とんだ間違いよ!!!









反論しようと、口を開けた瞬間。








「やだな~。女の嫉妬とかって!」








思いがけない所から声がして振り向いたら、そこには帰ったはずのレイがいた。







「レイ?!」








真由も戸塚さんも同時に驚いた。








「弥生さん、真由の事、責めるのとかやめてくれない?リョウにフラレたからって八つ当たりでしょ?」









「な、何よ、自分だってリョウの彼女に手を出すなんて、おかしんじゃない?」








「手を出すんじゃなくて、俺の彼女にするの!間違えないで欲しいな~」









「ちょっと!!」




  



    話がややこしくなること言わないでよ








真由は慌てて、レイと戸塚さんの間に割って入る。









「春日さん、止めるフリしてもダメよ。モテモテだってところ私に見せつけてどうせ喜んでるでしょ?」







「学校中の男にちやほやされて、それも飽きてリョウにまで手を出して、ちょっと綺麗だからって、調子に乗らないでよね。」








「私はリョウの許嫁なんだから!!!」







「許嫁???」



   



   今のこの時代に許嫁???



   



   小さい頃から知り合いだって聞いたけど、そこまでの関係だったの??








思わずポカンとしてしまった。

  








「だから、リョウからウザイって思われるんだよ、弥生さん。いつまでも親の
冗談、真に受けてさぁ~。バッカじゃね~?」









2人が昔からの知り合いであるのは、良く分かる。







だから遠慮がないのだろう。



   

   


   でも、レイ、言いすぎだよ!!!







と、思った時には遅すぎた・・・





   バッシ!!!







空間を鈍い音が響いた。








唇を怒りで震わせている戸塚さんの、豪快な平手打ちがレイの頬じゃなく、唇に当たっていた。








「レイ・・・血が・・」








怒りの目つきで戸塚さんを見ているレイの唇は、赤く腫れあがり端からは血が滲んでいる。









真由はポケットからハンカチを取り出し、今にも戸塚さんに殴りかかろうとしそうなレイを抑えるためにも、レイの前に立ち、唇にそっとハンカチをあてた。