社会の目は、許してくれない。

けれど、自分で選んだ道なら、それすら受け入れられる。

誰も不幸になんてなってない。



湊の言葉はとても重たい言葉だったに違いない。

けれど、その言葉にきっと救われたはず。




だって私たちは知っているから。


許してくれない気持ちも。

それを自覚する怖さも。

そこにしか、幸せがないことも。




「その時に気が付いたんだ。湊も何か抱えているのかな、って。苦しんでいるんだろうな、って想った」




苦しんでいたよね。

私が大人になるまで、一人で守ってくれていた。


それが当たり前だ、と。

後で特別なことだと気付いても、もう遅かったけれど。




「それから頻繁に家で遊んだりしてたんだ。それで、よく家族の話をしてくれた。幸せに暮らしていることも、可愛い妹がいて夢中なことも」




夢中、って。

なんだか恥ずかしくて俯いた。




「だから、わかった。大切なのは時雨なんだ、って。気付いたのは、卒業して社会人になってからだけど。当然だよな。大学の頃、まだ中学生だったんだから」




七歳の歳の差が、いかに大きいのかを知る。

湊の背負っていたものを、こんなカタチで知ることになるなんて思いもしなかった。




「黙ってて、ごめん」




そう言って、申し訳なさそうに私の頬に触れた。



その手の冷たさが、ここが夢ではないと教えてくれた。