目の前に居る小さな女の子は、ただ一点を見つめながら座っていた。

瞳には涙を溜めながらも、必死に好きな人を想う。

ついさっき、元カノの元に走って行った彼氏の事を……


「バカな事考えて無いだろうな?」


なんてぶっきらぼうに言いながら、そんな彼女を抱きしめてしまいそうになる。

寸前で止めた気持ちは、逃げない様にと掴んで居る手から伝わってしまいそうで、余計ぶっきらぼうになってしまう。


彼女は俺を見ながらフフッと笑い、又遠くを見つめた。

そんな彼女を、ただ見てるだけの俺。



素直になれない。



それは、俺が過去の恋愛で女性を信用しなくなったからだ。


自分が傷つきたく無かったから……


振られる度、俺なりに考えた果ての解決策が【信用しない事】だったのだ。


だが、どうだろう?


目の前に居る彼女は、俺と似たような恋愛経験をしながらも、本気で翔を愛し心の底から幸せを願っている。


このしなやかさ。


棘だらけの翔を素手で抱きしめ、その棘を抜き取り蘭に渡そうとしている。


傷つかないはずが無いのに。


俺には真似出来ない。