もちろん、そんな私達の変化を彩乃が見逃すはずも無く、私の耳元でコッソリ呟いた。


『愛莉、おめでとう』


そんな彩乃の言葉に、少し照れながらも『ありがとう』と伝える私。

浮かれた気持ちを引き締めるかの様に、仕事をしようと気合いを入れたものの、雨天時に海の家が繁盛するはずもなく暇なんだよね。


結局、やむことが無さ気な雨に渋々店終いとなった。

思わぬ早上がりにルンルンする彩乃は、あっという間に支度をして帰って行ってしまった。

私も仕方無く帰り支度をすると、お店を出ようとした。


「あっ、愛莉ちゃん」


そう言って呼び止めた人は、愛しの翔君。

私の手を握ると、ギュッと引き寄せられた。


ん???


翔君に捕まれた手には、何か異物感が……


「俺の携帯とメアド。後で連絡して」


耳元で話す翔君から、フッと香る香水の匂い。

男っぽいのに何だか甘い香りに、頭の中がクラクラしてしまう。

多分、『うん』って頷いたと思う。

実際、ドキドキし過ぎてあんまり覚えて居ないんだ。

クラクラしたまま、いつもの土手を登っていた。