(やっぱり駄目ね…)



青木さんのことは、昨夜のバラエティ番組でも放送されていたし、今朝のワイドショーでもさんざん取り上げられていた。
さっきの番組では自宅まで映っていて、インターホン越しに答えていたあの声はおそらくマイケルさんだと思った。
外国人特有のイントネーションのくせもほとんどないから、知らない人は相手が外国人だとは気が付かないんじゃないだろうか。
それにしても、どうして青木さんは取材に答えないんだろう?
青木さんは独身なんだし、結婚することについても別に問題はないと思うのだけど…
それが私は妙に気がかりだった。
そのせいなのか、昨夜はなんだか眠れなくて、私は夜中に起き出してパソコンの前に座った。
もう一度、美幸さんの小説を書こうとしてみたけれどやっぱりだめで、それから見ようか見まいかとても悩んだ末に、あの女性のブログを開いてみた。
だけど、そのページは一時的に閉鎖されていて、見る事は出来なかった。
おめでたいことだから閉鎖することはないと思うのだけど、悪質なコメントでもあったのか、それとも彼女の所属事務所は結婚に反対なのか…

結局、私は昨日からずっと青木さんの結婚のことばかり考えていて、何をするにもまるで身が入らない。
これじゃあいけないと思い、パソコンの前に座ってみたものの、やっぱり何も書けない。
書けないことなんて、実は端からわかってた。
だけど、今の私にはこれしかすることがなかったから…
画面をみつめながら、ただ、ぼーっとしていたその時、家の電話が鳴り響いた。



「はい、野々村です。」

「あ、野々村さん?マイケルです。
いきなりおかしなことをおたずねしてすみません。
野々村さんは一人暮らしですよね?」

「え…は、はい、そうです。」

「広さは…そう、部屋数はいくつありますか?」

「部屋数…ですか?」

確かにおかしな質問だと思った。
そんなことをなぜ知りたがるのか、わからなかった。
でも、マイケルさんが悪い事を考えてるとは思えなかったから、私は正直に答えた。
私が住んでるのは実家だから、豪邸ではないけど部屋はいくつかある。



「わぉ!それは良かった!
野々村さん、お願いがあります。
少しの間、カズをかくまってほしいんです。」

「え…?あ、青木さんを…かくまう…!?」

「はい、ぜひお願いします!
事情はそちらで話しますので、では、後ほど…」

「は…はい……え?」

電話はすでに切れていた。



(青木さんがここに…?)

私はすぐには事態が飲み込めず、受話器を持ったままその場に立ち尽していた。