「ひかり…」

俺は殴られるのを覚悟しながら、ひかりの唇に自分の唇を押し付けた。
久し振りの柔らかな感触に俺の心は芯から震えた。
ひかりの息遣い…温かさ…もうこれで最後なんだ…この感触はもう二度と……
様々な感情が心の中をかき乱した。
これが最後なら、ずっとこのままこうしていたい…

だけど、俺の願いは儚く消えた。
ひかりの腕がそっと俺を押し戻し、柔らかな唇が離れていった。
ただ、黙って…



「ありがとう…ひかり……」

「ど、どういうことなの?
シュウ、こんな所に呼び出して、一体何をするつもり?」

ひかりは俺にくるりと背を向け、少し怒ったような声でそう訊ねた



「ひかり……シュウはな、おまえさんを元の世界に戻すことを決意した。
とても大切なものと引き…」

「爺さん、余計なことを言うな!」



「ど…どういうこと!?
も、元の世界って……シュウ、どういうこと?」

「ひかり…実はな、この門を動かすためのエネルギーを作り出す方法を賢者が思い付いたんだ。
もちろん、成功するかどうかはまだわからない。
賢者の言うことだから多分だめだと思うけど…ま、一応、やってみよう。」

俺は涙を拭い、ひかりを門の片側に立たせた。



「良いか、ひかりはここにいて、ここを持ってるだけで良いんだ。」

「こう?」

ひかりは素直に門に触れた。



「そうだ。そのままでいるんだぞ。」

俺は、すぐに反対側に行き、ひかりと同じように門に触れた。



「どういうこと?
これで何が…あ……」



それはすぐに始まった。
俺の身体には何の異変もない。
だけど、門がうっすらと明るくなり始めて…
俺の鼓動は一気に速さを増した。
賢者の言う通り、この門は今俺達の記憶を吸い取ってエネルギーに変換してるんだと悟った。



「ひかり…なんでも良いからそのままの態勢でいるんだ。
すぐに済むから…」

「わ…わかった…」

ひかりは明るくなった門を見上げながら、言われた通りにじっとしていた。
俺は、今すぐにでも手を離してしまいたい衝動を必死に堪えて…そして、そっと目を閉じた。
ひかりのことを見るのが…忘れていくのが辛かったから…