「け、敬太様!?皆さん見ていますわ、恥ずかしいので降ろしてくださいませ!」


「だーめ。いま降ろしたら星華は逃げちゃうもん」


「当然ですわ!」


「ほらね?だからダメー」



敬太様の腕の中でジタバタと暴れる私に悪戯っぽく笑いかける敬太様。


しかし、微かに怒気を孕んだその瞳は語る――『逃げられると思うなよ』、と。



(ひ、ひぃぃいいいいい……!)



思わず真っ青になった私は、すぐにハッと我に返った。


なんか、あまりにも驚き過ぎて(あと敬太様の動きがスムーズ過ぎて)

一瞬忘れかけてたけど、今ってイベントの真っ最中だよねコレ!?


それなのに――



(なんでヒロインの真凛ちゃんじゃなくて悪役の私を抱き上げてんのこの人!!)



お前がお姫様抱っこする相手は私じゃない、真凛ちゃんなんだ!


さぁさっさと私を降ろして真凛ちゃんを抱きしめに行って来い!!


……なんて心の中で絶叫するけれど、当然の事ながら敬太様には伝わらない。


さてどうやって説得しようと私が頭を抱えたその時、



「……長谷川!」



そんな切羽詰まった声と共に、真凛ちゃんを呼ぶ声が聞こえた。


え、誰?と思いながら俯いていた顔を上げれば、


そこにはグッタリとした真凛ちゃんに駆け寄る――菅原様の姿。