婚約者から逃げ切るだけの簡単なお仕事です。





「……やっぱり、体調が悪いんじゃないのか?

オリエンテーション合宿が楽しみなのは分かるが、安静にしていた方が」



ようやく顔を離した菅原様が、私の頭に優しく手を置きながら口を開く。


……いや、だから違うんだってばー!!



(ひ、人の話を聞けぇぇえええええ!!)



心の中で、私は思わず頭を抱えてしまった。


ってかさ、おでこ以外にも熱を測る方法なんていくらでもあるでしょ!?


なんでわざわざ『ごっつんこ☆』をチョイスしたんだよ!


少なくとも出会って二日目の女子にする事じゃないと思うのは私だけでしょうか!


心の中で菅原様にギャースカ叫んでいると、ふとどこからか強い視線を感じた。


不思議に思ってくるりと振り返れば、視界に入ったのは窓越しに見える2組のバス。


そしてそこには、窓にぴったりと両手を付けてこちらへ微笑む――敬太様の姿があった。



(だ、大魔王様が降臨なされたぁ!?)



その凄みのあるエセ王子スマイルにビビった私は、すぐに視線を逸らして気付かないフリを装った。


けれど、グサグサと突き刺さる視線の強さは変わらない。



(こ、怖いよう……!)



私はダラダラと冷や汗をかきながら、

しばらくその視線と菅原様の過保護っぷりに耐える事となったのだった……。