(……神様なんていないんや)



私は頭の中が真っ白になるのを感じながら、身体が震えるのをこらえつつゆっくりと振り向いた。


視界に入るのは、白を基調とした雪城学院の制服。


一年生である事を示すえんじ色のネクタイ。よく均整の取れた身体。


……そして、極上の微笑みを顔に浮かべた我が婚約者サマの姿。



「ぁ、け、敬太様……!」


「やっと俺のクラス、ホームルームが終わったよ。一緒に帰ろう?」



首を絞められないようにと向かい合った腕の中、敬太様は完璧すぎる王子様スマイルを浮かべている。


……たまたま廊下に居合わせた女子生徒がその笑顔を見て真っ赤になってらっしゃいますが、

思わず寒気がしちゃうのは私だけなんですかねー?


なんだか残念な気持ちになりつつ、私は小さく溜息をついた。



「すみません敬太様。今日は一緒に帰れそうになくて……」


「え?何かあったの?」


「はい。副委員長になってしまいまして……」


「へぇー?さっきの彼と一緒に?」



その途端、エセ王子の完璧な笑顔に一瞬だけ黒いモノが走ったのを私は見逃さなかった。


その視線の先にいるのは、私と一緒に職員室へ行こうとしていた菅原様だろう。


うーわ、わざわざ引き離したのに早速出会っちゃってるしここの二人!


しかたない、菅原様は私の屍を越えて先に行っていてください!

ここは私が食い止めます!!


そんなバカな現実逃避をしながら、ふと冷静になったところで――私はものすごい羞恥心に襲われた。



(ちょ、ちょっと待って!今この状況はヤバくないか!?)