「先ほどの方は、敬太様を待っている間に私の話し相手となってくれたのですわ」
「話し相手?」
「はい。一人で立っていた私が退屈しないよう、気をきかせてくれたのです」
私は、敬太様の探るような視線をまっすぐ見つめ返しながら答えた。
それを聞いた敬太様は、ふーんと頷くと歩いていた足を止めた。
次の瞬間、少し上にあったはずの敬太様の顔が息がかかりそうなほど間近に迫る。
「ねぇ、星華」
「な、なんでしょうか」
「……さっきの男と、あんまり関わらないようにしてね」
「え?何故です?」
「んー?なんとなく、かな」
敬太様はそう言うと、少し悪戯っぽい表情で私に笑いかけた。
たまたまその表情を見かけた見知らぬ女子生徒たちが顔を赤くするなか、私はしっかりと理解する。
敬太様の『さっきの男と関わるな』という言葉は、お願いだなんて生易しいものじゃなく
――半強制的な『命令』である事を。
「……善処いたしますわ」
私は笑顔が引き攣りそうになるのを堪えながら、控えめな微笑を浮かべて再び歩き出した。
――数分後、このやり取りが全くの無意味になるとも知らずに。