「――敬太様」
私は手に持っていた扇子で口元を隠すと、さりげなく視線を巡らせ、
この部屋にいるのが自分と敬太様の二人だけだと確認する。
そして、相手が油断するように控え目な微笑を作った直後――
「気持ち悪いからその優しいフリはやめてくださいませ!このエセ王子っ!!」
私はビシッ!と素早く扇子を畳むと、それを彼の眼前に突き付けた。
「……え、あの?」
突然豹変した私に驚いて、思わず固まってしまう敬太様。
それを見て、私は誰もが後ずさるであろう悪人顔でニヤリと笑ってみせる。
……客観的に見れば。私は『体調を心配してくれている婚約者に突然キレる女』にしか見えないだろう。
いや、実際そうなんだけど。
(ごめんなさいね、敬太様……)
私は硬直している彼を見ながら、心の中で謝る。
だけど、仕方ない。
どんなに心が痛くても、私には敬太様と不仲にならなければならない理由があるのだ。
――西園寺星華(サイオンジ セイカ)、15歳。
西園寺家の長女という超お嬢様な私の秘密とは、
『前世の記憶を持っている』
という少し特殊なものだった――。