パタン


なるべく小さな音をたてて、リビングへ入る。

微かに甘いチョコレートの香りがしたから、多分香月だろうか。


「あれ?夢ちゃん一人?」

「……えぇ。あ、綾が真帆の事を呼んでいるわよ。」

「……、わかった」



真帆に目を合わせる事が出来なかった。

変に、思われたかな……。


パタパタと騒がしくスリッパの床との摩擦音を鳴らしながら、真帆はリビングから出て行った。


ごめんなさい、真帆。


「随分暗い顔だなお嬢さん。悩みがあるなら俺だけに言えよなー」

「奏夛………。」

「お前が思い詰めると、何か大事が起きるんだ。さぁ、座って俺だけに言えよ夢夏」

「椎…………、良いの、今回は…」


一度頬をぺちんと叩き、無理矢理口角を上げた。


綾だって悩んで私に言ったのに、その感情をみんなにやすやすとは言えない。
言いたくない。


でも良かった。

あの時発作が起こらなくて。


「顔色悪いぞ夢夏」

「香月のチョコレートを食べると治るわよ。大丈夫」