「ママ、なにがたのしいのー?」

 桜の花びらを追い掛けていた深雪【ミユキ】が、深空のそばに駆け寄って来た。そして、その小さな指で深空の顔を差し、不思議そうな顔をして尋ねたのだ。

「夏美がね、ちゃんとダイエットできたかなーって」

 深空は穏やかに微笑み、小さい深雪の目線に合わせてそう答えていた。

「なつみのドレス、なにいろかなー」

 深雪は、再び深空の前に走り出した。深空はそんな深雪の元気な姿を目で追いながら、歩いていた。

「深雪、転ぶよー! 気を付けて!!」

 ここは桜並木が続く直線道路。その脇の歩道は、美しい薄紅色した桜の絨毯だった。その絨毯の上を、今年3歳になったばかりの深雪が、走り回っている。

 薄い水色のワンピースの裾をなびかせ、楽しそうな娘の姿を、深空は目が三日月のように細くさせて微笑んでいた。