っ!


「親父は覚悟を決め…とりあえず、その男からナイフで刺されようと思ったらしい。急所じゃなければ、ちょっとくらい刺されても、俺らは平気だから。刺されて隙をついたあと、男を殴って気絶させる予定だったんだ…でも…」

「………?」

「親父が刺される寸前…お袋が、親父の前に出てきて・・親父をかばったんだ…」


!!


そんなっ…



「ナイフはお袋の背中に刺さり…お袋はその場に倒れ込んだ。男はその場から逃げ…そのままお袋は死んだ」

「・・・・」


言葉が出てこない…

胸はズキンズキンと痛む。




「お袋は最後に…『あの人に刺されるのは、あなたじゃなく私よ』『幸せでした…』と言って死んだ…親父はその場で泣き崩れた」


源喜さんは、枯れた声で言った。




「その後…お袋を殺した男を、鬼一族総出で、血眼になって探したが…結局見つからなかった。親父は『あいつが生きていても、妻は死んだんだ…あいつに未練はない』と言って、捜索は諦めた」


お父さん…

すごく辛かっただろうな…




「親父は…お袋が死んでから、どこかいつも上の空。死んでもう結構経つのに…親父はまだ、吹っ切れないみたいだ」

「そう…最愛の人が亡くなったんだから…なかなか吹っ切れないよね」


吹っ切れる日なんて…来るのかな…




「お袋を殺した男を…親父は人間だから、殺さなかった。でも俺は…もしそいつを見つけたら……間違いなく殺す。俺だって人間は殺せない………でも、あいつだけは………」

「源喜さん…」


源喜さんの手が、微かだけど震えているのがわかった…

私は源喜さんの手を、そっと握った…




「ひと目でいいから…源喜さんのお母さんに、会ってみたかったな……」

「……!」