「でも…大が産まれてすぐ…事件は起こった……」




源喜さんの表情が変わる。




「その日…親父は仕事の都合で、朝から家にいなかった。俺達もたまたま出掛けていて、家にはお袋と大だけだったんだ…」


源喜さんは続ける。




「お袋が赤ん坊の大を寝かしつけ…自分もうとうととしてた時だった…突然目の前に、人間の男が現れたんだ…」

「…!人間……」


突然目の前にって…どういうこと?




「その男は、お袋の元恋人。つまり許嫁だった男…」

「…!」

「産後で疲れていたこともあって、お袋は侵入者が気付かなかった。それに相手は人間だったから、尚更妖気も感じ取れなかったんだ」


妖怪は妖気があるけど…人間はないから、確かにわかりにくいかも。

妖怪である源喜さんたちはわかっても、半妖怪のお母さんは、気づかなくてもおかしくない。




「その男は、自分を捨てたお袋を恨んでた。だからお袋を探し出し、復習しに来たんだ…」

「復習…」


その言葉に、胸がズキンと痛む。




「お袋は、その男にナイフを突きつけられた。お袋は大を必死で守りながら、男に謝罪した…」

「・・・・」

「でも…男は謝罪を受け入れてはくれなかった。その時、ちょうど親父が仕事から帰って来たんだ」






「親父は、お袋とその男の様子を見て、すぐに状況を察知した。すると男は、今度は親父にナイフを突きつけたんだ…」

「…………」

「親父なら、人間の1人…楽勝に殺せる。でも、親父には人間を殺すことは出来なかった。お袋と同じ人間を、殺めることなんて…無理だったんだ」


お父さん……




「親父はその場で必死に考えた。その男を殺さずに、お袋と大を守る方法を…でもそれを阻止するかのように…男は、親父に襲いかかってきた…」