マリー

 知美は信号を渡った時、前方に見慣れた姿を見つけた。見知った集団の中に、一人だけ名前が分かる人がいた。門田一恵だ。

その脇には昨日、知美に挨拶をしてくれた女子生徒の姿もある。他に顔と名前が分からない人も幾人かいたが、挨拶くらいなら良いかもしれないとその集団に近寄っていく。

 だが、聞こえてきた一恵の声に知美は足を止める。

「まだぐずぐすしてるの? このままならわたしの勝ちだよね」

「そうなんだけど、岡江くんとか笠井さんとか怖いし」

「別にあんな子たち怖くなんてないわよ。ただ、声が大きいだけじゃない」

 ショートカットの生徒に対し、鼻を鳴らす一恵に、周りの女生徒が苦笑いを浮かべる。

「でも、悪魔って本当なのかなあ」

「さあね。でも、賭けの対象にはもってこいでしょ?」

「一恵はそういうの好きだよね」

 その言葉に一恵は得意げに笑う。

 知美には彼女たちの話の全貌が分からなかった。だが、彼女が好意を持って親切にしてくれていたわけでないことを悟る。

 知美は近くの民家の塀の陰に身をひそめると、彼女たちの姿が見えなくなるのを待って学校に行くことにした。