マリー

「どうした川瀬」

「教科書が違うみたいで」

 高田は溜め息を吐く。

「予備の教科書があるからそれを使いなさい」

 彼は教師の机の脇にある本棚から教科書を取り出すと、差し出した。

 知美は周りと目を合わせないようにして、教科書を受け取っていた。



 知美が感じた異質な感覚は気のせいではなかった。授業の終了の鐘が鳴ると、顕著になる。

知美を興味深く眺める人はいても、知美の視線がその主を追いかけると、途端に目を逸らされる。

偶然と最初は言い聞かせていたが、その回数が重なるにつれてそう考えざるしかなくなっていた。


 そのとき、聞き覚えのある笑い声が響く。

 顔を上げると、一人の少女の姿が目に飛び込んでくる。彼女に浴びせられた言葉が一言一句違わずに脳裏によみがえる。


 昨日と同じように肩の下まである髪の毛はしっかりと結われていた。