知ったつもりになっても、完全は難しい。

 知美には知らないことがたくさんあった。その一部を岡崎が教えてくれた。

 一つが伊代のことだ。彼女が以前言っていたこの場所を離れたと言っていたのには麻里の件が絡んでいたらしい。

 知美が麻里と別れ際に見た幻の話を岡崎に話してみた。

 彼は苦い表情を浮かべながらも、あのときぼかしたことを今度ははっきりと教えてくれた。

 雨の中で待つ麻里に根も歯もない事を吹きこんだのは、知美のクラスメイトの前田の母親の姉とその友人の古賀という少女だった。前田の母親は結婚してから姓が変わり、もともとは樋口という名字だったらしい。

 ただ、当時は確証もなく、伊代が二人と麻里が話をしていたというのを聞いたという事らしい。

 伊代が棘のある態度を取っていた理由に自ずと気づく。

 伊代は麻里が送り届けた後、その話を聞き、彼女たちの家に行き、直接文句を言ったらしい。とぼけた二人に手を挙げた事で、問題が大きくなった。彼女は翌年の大学入学を機に、ここを離れたのだ。

 彼女の父親も転勤願いを出していたらしく、伊代が大学三年の時にこの地を去った。伊代の結婚は現在の家に住むという件で、両親に強く反対されたらしい。

 知美はそこまで聞いた時、ぴんときた。

 麻里に会いに行こうとした母親に嘘を吹きこんだ人物と同じなのかと尋ねると、岡崎は苦い表情をしたまま否定をしなかった。

 そして、母親と二人の少女の仲が良かった事を付け加える。

 なぜ麻里にそんな事を聞いたのかを聞いてみたが、彼は困った顔をして分からないと言った。

 知美は何も言えなくなり、岡崎に「教えてくれてありがとう」と伝えたのだ。