マリー

 彼はそれを言い残すと、部屋を出て行った。

 伊代が岡崎に案内されて部屋に入ってきた。彼女は入ってくるとすぐに知美との距離を詰める。知美は伊代の顔を見る事が出来なかった。目を逸らしたとき、背中の肩甲骨に温もりが宿る。伊代は知美を抱きしめていた。

「一緒に帰りましょう」

 泣いているのではないかと思うほど、弱い声だった。そんな声を出す伊代を今まで知美は見たはなかった。知美の固い決意を揺るがすには十分だった。

 だが、心を鬼にして、唇をそっと噛みしめる。

「迷惑がかかるから、帰らない」

「誰が迷惑だって言ったの?」

「周りの人がみんな言っているじゃない。それに伯母さんだって」

 知美が涙を喉に詰まらせる。

 岡崎は知美の肩に触れると、彼女が語った事を全て代弁してくれた。

「そんなことしてないわよ。わたしはポストに入れたもの。知美ちゃんがそれを持っているの?」